Bulue marlin

地元に馴染みのバーがある。

 

もう10年くらいは通ってると思う。

 

3日前も酔っていい気分なので22時くらいにぷらっと立ち寄った。

 

客はゼロで、カウンターで店長のたかひろさんが1人、何か作業をしていた。

 

俺より10歳上で、いつも飄々としているけどプロ意識が高いたかひろさんのことが俺は好きだ。

 

たかひろさんは釣り人で、特にタチウオに凝っている。

月に何回かはたかひろさんが釣ってきたタチウオをそのバーで揚げたり刺しにして振舞ってくれるイベントがある(俺はまだその場に居合わせたことがないけどいつかたかひろさんの釣果を食べたい)

 

そしてたかひろさんは寿司屋の息子なので魚を捌くのがうまい。

いつも写真で捌いてるところを見せてもらうけど完全にプロの技だ。

 

俺はたかひろさんがいる日はいつも釣りの話を振る。

釣りの話を聞くのは楽しい。

釣り人はみんな風や水と、対話している。

うちの母方の叔父も釣り人で、よく俺も小さい頃琵琶湖や兵庫の池に連れまわされていたので釣りのことをまじまじと観察していた。

釣り人というのは見えない自然の機微を読む。

そして預言を得たかのように、ポイントへと竿を振る。

そこにはなにか生きること自体に対する確信のようなものが見出せる。

 

3日前もたかひろさんに釣りのいろいろなことを教えてもらった。

その話のなかで沖でマグロも狙うこともあると聞き、びっくりして「えっ、あのテレビでやってる大間のやつみたいなでかいの狙うんですか?!」って訊ねると

「マグロって言うとみんなそう言うけどマグロにも小さいときがあって俺が狙うのは体長1mくらいのビンチョウやから」

とたかひろさんに笑われた。

「そっかあ」って俺も笑った。

 

それから大きいマグロは船上で暴れるとやばいので殺してから引き揚げると聞いて、俺は与那国でカジキ漁をしている恩師の娘婿のことを思い出した。

 

恩師に聞いた話ではカジキも船上で暴れるとその鋭利な鼻に人体が貫かれる危険があるので、引き寄せて棒で頭を殴って絶命させてから引き揚げるらしい。

 

そのことを俺はたかひろさんに話した。

 

するとたかひろさんは

「クロカワカジキは死ぬ時に一瞬だけすごい綺麗な青色に光ってから死ぬんやで」

と教えてくれた。

 

その輝きのことを「Bulue marlin」と呼ぶらしい。

 

とても興味深い現象だし、花火のような命の最後の輝きがこの世にあることを考えるとなんだかぼんやりとした気持ちになる。

 

そんなカクテルや宝石のような煌びやかな名前がつけられるのだから、さぞ綺麗なんだろなってほろ酔いの霞んだ頭で想像した。